9回事故対策会議報告

                   教育遭対部長 中川和道 20150415

 

9回事故対策会議が2015312日(木)19時〜21時,労山大阪府連事務所にて開催された.11の会から21名が出席し,大阪労山ニュース3月号の事故一覧に掲載されたNo.1322の事故のうち,15171819の順に討論した.

最初に園敏雄理事長から「2014年度の事故は20件うちヘリ救助は何と7件.昨年度労山全国でのヘリ救助総数20のうち7は大阪が起こした.何とかしなければいけない.」との呼びかけがあった.司会の中川から「事故対策会議は,事故の当事者や当事者に近い責任者が一堂に会して経験を語り合い教訓を探し合うことによって事故を減らしていく会合.事故当事者の不明や欠点を攻撃する吊し上げ的な会議ではなく,同じ場面に自分が立った時,事故を避ける判断の分岐点がどこにあったのかを学びあう会議にしたい.基本的な立場は『明日は我が身』の危険をどう避けるか,事故から学ぼうと考えたい.」との趣旨確認の説明があった.

 

No.15 2014/7/26 13時頃AK(女性) 48才第21期夏山ハイキングセミナー  比良 明王谷.第21期夏セミ受講生。沢実技山行で遡行練習中、支給した「わらじ」が合わなかったため、へつっていた岩から転落し水中の石で右第2趾を負傷。骨折を疑う様相だったため、翌日現地まで家人に迎えに来てもらい帰宅.受診の結果骨に異常なく打撲と診断され特別基金の申請には至らずにすんだ.ヒヤリハットよりは高レベル事象としてこの事故対策会議に報告.議論では用具の適正確認の必要性があらためて語られた.事後対応も適切であり今後も注意の継続をとの議論であった.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


No.17 2014/8/13 10:10 TS(男性)56才ハイキングクラブげんごろう 北アルプス剱岳剣御前小屋前.室堂を740分に出発し,820分雷鳥沢キャンプ場を経由して雷鳥坂を登り1010分頃に別山乗越の剣御前小屋に到着.到着の前後より胸(肩の下)が急に苦しくなり,最初は高山病と思ったが小屋にて休憩するも症状が改善しなかった.苦しさは激痛ではなかった.次第に手指が冷たくなった.小屋の要請を受けて山岳救助隊が到着し,富山県防災ヘリコプターにより富山県立中央病院に搬送(ホバリングからハーネス吊り上げ)され,検査とカテーテル手術(施術開始13時前後)を行い入院.意識は常に正常で医師への対応も全て自分で実行.緊急検査の結果,右冠動脈3本のうち1本の完全閉塞を確認したため同部位に対して経皮的冠動脈ステント留置術・形成術を施行し治療に成功.急性心筋梗塞.医師による治療説明によれば脱水症状に近かったため血管にカテーテルを通しにくかったとのこと.16日間入院後退院.大阪で経過観察中.

 よくまとまった資料1ページをもとに事故者本人から説明のあと議論.第1の論点は日常的兆候であったが,本人は今回以外何の兆候もなしとのことであった.当日の兆候についても何もなしとのこと.第2の論点である脱水症状に関して水分摂取量を尋ねたところ,朝食時に250cc行動中に1000ccとやや少ないものの致命的とは言えない.原因も対策も導けないというまれな事故事例となった.かすかな手がかりを以下に列挙.(1)高年齢なのだから徹夜で運転入山は避けるべき.統合初級アルパインリーダー学校では30才の若者もいるが,睡眠をとるため高速道路のパーキングエリアで3-4時間眠っている.どこが休めるかテクニカルノートに記録をとるほど重視している.睡眠は必ずとって欲しい.(2)高山は乾きやすい.水は多めに.(3)外科の見地からはこの種の障害はかならず予兆がある.それを見逃さず,AEDや心臓マッサージなどの対処が必要.日ごろの訓練と予防学習が必要だ.

 パーティーのあり方についても忠告がなされた.救急隊員が出動したりヘリ救助が決まった時点ですでに重大事故となった.この時点でなぜ他のメンバーは時間記録をとる,連絡をとるなどの重大事故対応に頭が切り替えられなかったのか?ヘリ搬出の時間も不明だし気温や天気の記述もいっさい記録にない.重大事故にあっているとの認識がパーティーにないのではないか.他人を互いに気遣う配慮が常に求められ,これがパーティーシップである.今後の改善が望まれる.

 

No.18  2014/9/20 13TO (男性)30才大阪ぽっぽ会 三重県名張市香落渓谷名張第1岩壁. クラッククライミングの終了点より懸垂下降中に,ロープ末端が確保器より抜けて約15m墜落し行動不能となった.消防による搬出とヘリによる病院搬送となった.脊椎横突起骨折5本・肋骨骨折・骨盤骨折.入院4ヶ月.

早川会長以下,長い検証と討論を積み重ねた結果であるA42枚の資料をもとに討論.この事故の討論はこれで3回目であるが,相変わらず多くの議論が不可解な行動の原因に集中した.(1)末端を結ぶと会で決めたのになぜ守らなかったか?(2)カウンター懸垂(あるいは自己ロワーダウン)すればよかったのになぜわざわざ懸垂したのか?(3)下から「ロープが下に届いていない」との指摘がなされたのになぜ聞き入れなかったのか?(4)バックアップをなぜとっていなかったのか?などであった.討論では(3)について「下の地面には届いていないが目指すバンドには届いているとの勘違いをしていた」との説明があったものの,(1)(2)(4)については本人の証言「この日は通常と違い適当にセットしてしまった」以上に立ち入れず,会の総括も「真因までいたることは困難」との記述でとどまってしまい,もどかしさが残った.もっとこなれた報告を期待したい.

議論では,真因がつかめないということは未解決でありまた起きる可能性があるとの指摘がなされた.強硬な意見として「原因究明までは山行中止もありえるのではないか」「末端を結ばないで起きた事故には,特別基金申請の印鑑が押せないのではないか」などペナルティー重視の意見も出されたが,「12/23懸垂技術検討会の中川まとめでは大型エイト環では末端を結んでもダメなことが示唆されている」,「それを言うと今度は,末端さえ結べばよいという短絡思考を助長してかえって危ない」などの討論がなされた.また,議論では「30mのロープを引き上げ,末端に結びをつくることが本当に実行できるのか?」 との問いがなされた.これに対し早川会長は「やると決めたからには愚直にやる」とつよい決意を示された.

議論のまとめとして,具体的行動としては,ぽっぽ会の「(1) 自分は危険なことをしているという認識が大切,(2) 相互にチェックしあうことが大切,技術的には(3)ロープ均等振分け,(4)末端結び,(5)自己ロワーダウンが大切」との方針の必要性が再認識された.

 

No.19 2014/10/12 6:50 KA(男性)57才 豊中勤労者山岳会 北アルプス錫杖岳前衛壁1ルンゼ本流1ピッチ目  大阪労山中級登山学校修了山行の2日目.パーティ3名で錫杖岳前衛壁1ルンゼ本流ルートの1ピッチ目リード中,30mほど登ったところでスリップして5m墜落.支点とロープで止まったもののスラブの岩壁にぶつかり,左足甲側面と右大腿部を強打.ロワーダウンで取付きにおろし容体を観察したが,自力下山が困難とみて岐阜県警にヘリによる救助を要請.高山市内の赤十字病院に搬送された。左第5趾中足骨骨折.

 A44ページにわたる個人報告書をもとに議論を行った.1ヶ月前の下見のさいと同ルートを登ったあと今回の墜落.事故原因のひとつに「疲労の蓄積」をあげ,今後の課題として「事故や怪我の防止には体力と反復練習が必要」とされたが,それならば体力のない人は落ちるのかという疑問があり事故の全容を捕らえていないとの意見があった.事故の再発防止の手がかりを得ることがこの事故対策会議の目的であるから,さらに踏み込んで欲しいところである.

 また,中級登山学校で起きた事故であるので,KA氏個人の事故報告書が出されるのはおかしいとの意見もあった.38日の労山大阪府連総会では登山学校での重大事故の検証や再発防止の活動は第3者を加えて登山学校と理事会とが行うことになった.たとえば今回第3者から見ると,台風が数時間後に迫った中での事故であり,この観点からの検証も求められよう.今後,登山学校での事故の検証を見直すきっかけとしてこの事故は重要な転機となるものであった.

 

 

なお,この会議の終了後,ハイキングクラブの方々から「クライミングの事故説明は図を描かないのでちっとも分からない.しかも分かる言葉を使わないのでさらに分からない.彼らは教訓を分かち合う気があるのだろうか?」との痛烈な批判が寄せられた.以後,心して会議をもちたい.

 

 

参加者21 豊中労山4大阪ぽっぽ会4以下1名の会は きたろうハイキングクラブ このはな テンション  ピトンの会 モンテス 吹田労山 志峰会 八尾山の会 教育遭対5