8回事故対策会議報告

                   教育遭対部長 中川和道 2014.09.20

8回事故対策会議が2014821()19時〜21時,労山大阪府連事務所にて開催された.24の会から56名が出席し,大阪労山ニュース2月号の事故一覧に掲載されたNo.915の事故のうち,6345の順に討論した.

最初に園敏男理事長から「事故件数の年度別集計数が減っていたから安心していたら,5月連休中に,ヘリコプターを呼ぶ事故を大阪府連は4件も起こしてしまった.そのうち1件は死亡事故である.お亡くなりになった白形さんにみんなで黙祷をささげたい.」との呼びかけがあり,黙祷を行った.理事長は「本日は多くの方にお集まりいただいた.十分に議論をしていただきたい」と述べ,会が始まった.司会の中川から「事故対策会議は,事故の当事者や当事者に近い責任者が一堂に会して経験を語り合い教訓を探し合うことによって事故を減らしていく会合.事故当事者の不明や欠点を攻撃する吊し上げ的な会議ではなく,同じ場面に自分が立った時,事故を避ける判断の分岐点がどこにあったのかを学びあう会議にしたい.基本的な立場は『明日は我が身』の危険をどう避けるか,事故から学ぼうと考えたい.」との趣旨確認の説明があった.

 

No.6 死亡事故から議論を開始した.大阪ぽっぽ会の早川代表から資料にもとづいて報告あり.5/10 白形さんは不動岩東壁ワンポイントハングルートをH氏と登り,ルート終了点から10.5 mm 60 mロープを2重に使って東壁中央ルート(V級)中間部のテラスに向って15mの懸垂を開始した.懸垂のバックアップはかけていた.下降開始の状況をH氏は見ていなかった.中間テラスの1m上で白形さんは「あっ」,続いて「あ〜っ」との声をあげ,墜落した.墜落距離30mで即死.ロープの32m点には確保器ATCが装着されたまま残されており32m側末端には8の字結びが施されていた.ロープの他の一方(28m)の末端には結びがなかったが,始めから結んでなかったのか解けたのかは不明.

大阪ぽっぽ会の現場検証からの仮説は2つ.仮説160mロープが均等に2重になっておらず片方14m他方46m2重になっていた.さらに14mの末端に結び目が無かったため14m下降した時点で中間テラスに届く前にロープが下降器からすっぽ抜けて墜落した.仮説2:ロープは30m点で均等に2重になっていたが,下降器を1本のロープにしかかけないまま懸垂を始めてしまった.下降器に通した側のロープは手中でロックされ,下降器に通していない側のロープが手中で滑りながらの下降となり,ロープがずれて中間テラスに届く前に下降器からすっぽ抜け,墜落した.集中的な現場検証にも拘らず2つの仮説のどちらかの結論は得られなかったが,屋外での岩登りを自粛しつつ研究を重ね,事故を防止できる標準手順16項目()6/1に定めた.2本のロープの末端を結ぶこと,メンバーで互いにチェックしあうことがその手順の要である.

議論では,技術課題と人的課題とが出された.クライミングをしない方々の参加が多かったこともあり,技術課題の深い議論は困難であった.例えばバックアップは未完成の技術であるため議論が収束しない.宮本俊治氏のOWAF-ML投稿「バックアップノットは諸刃の技」も宿題として残り,技術課題は別の機会にとの感があった.この会議で確認されたのは,「メンバーで互いにチェックしあうこと」の重要さであり,人的課題もまた事故防止に欠かせないことであった.

No.3 4/26 15:50 TS (男性) 70才 大阪ぽっぽ会 裏六甲不動岩東壁ウリウリルート.地上6.4m位置の1ピン目をプリクリップして登り始め,テラスに上がり地上12.3m2ピン目にロープをかけるためロープをたぐったとき,バランスを崩して墜落.グランドフォール.頭部と背中を強打.ヘリで搬出.胸椎圧迫骨折,多発肋骨骨折,外傷性気胸 他.

 大阪ぽっぽ会の早川会長からの報告と当事者Sさんも加わっての議論.ベテランが日常的に慣れ親しんだゲレンデでは深く考えずに登る,いわゆる「自動化,機械化,マンネリ化」が起きやすく,それならではの危険が潜んでいるので気をつけよう,との議論がなされた.アルパインクライマーからは「危険受認のアルパインクライミングですら原則3mごとに支点をとる.ところがこの場合(1)支点間隔が6mもある,(2)落ちると地面に墜落することを前提としてルートが運営されている,というのは危険排除のスポーツクライミングの原則逸脱ではないか?」との指摘がなされた.ルート作成者に話してみているとの発言もあった.

No.4  4/27 7:50 TN (男性)54 H. C. MONTES 中央アルプス熊沢岳.熊沢岳付近の雪斜面をトラバース中に転倒し木曽側の雪渓へと650m滑落.警察に連絡し警察ヘリにて10:48救出され病院へ搬送.

 同行者のK(H.C.Teruru)と当事者N氏(当日は欠席)の報告書を説明していただいた.N氏だけ前日からロープを出してもらうなどN氏の雪上歩行には前日から不安定さがあった.難しいところを何度も通過し,事故現場はロープを要しないと判断したら事故はそこで起きてしまった.ピッケルを体につけてはいたがピッケルが手から離れ,ザックも約20kgあり,ピッケルでの滑落停止が出来ないままあっという間に加速して落ちて行った.650m滑落して一命を取り留め得たのは幸運としか思えない.

討論では,春山23日で20kgの荷物は重すぎたのではとの意見が出て.参加者一同の共通認識であった.さらに,20kgの荷を背負って滑落停止訓練をしてから入山をとの指摘があった.パーティー作りや運営の問題点として,異なる会の会員がパーティーを組むには事前の合同トレーニングで技術や合図などを確認する必要があるが,事前のトレーニング山行にN氏は体調不良のため不参加となったなどの不十分さがあった.また,山行開始後はトレーニング不足による技術問題にリーダーが気付いたら登山中止勧告とか下山勧告をためらってはならないのだが,リーダーがN氏を把握制御しきれなかったのではないか,あるいは他のメンバーも互いにチェックをしあえず互いを尊重しすぎて事故に至ったのではないかとの指摘もなされ,リーダー論・パーティー論の問題が明白になった事故ではないかとの意見もあった.

No.5  5/4 22時頃 SA (男性) 39才豊中労山 北アルプス槍ヶ岳山荘テント場 テント泊中の422時頃テントシューズでトイレに行こうとして足を滑らせ槍沢方面に250m滑落し殺生ヒュッテ付近で停止.殺生ヒュッテでビバーク中の登山者が気づき槍ヶ岳山荘まで登り通報.会の3名が救助に向かうと同時に長野県警に救助要請.4日夜は殺生ヒュッテ付近でビバーク.5520分頃にヘリでピックアップ.病院に搬送.左手骨折、腰部骨折、全身擦り傷.

 討論では,なぜ滑ったかがまず議論された.夕方遅くテント場に着いたので安全な幕営スペースが確保できず,危険箇所に近い幕営を強いられたのではとの質問があり、豊中労山からは「安全な場所を確保できた」とのその場での回答であった.しかし後日の確認では,「テント指定場内ではあったがテント周りおよそ1メートル弱のスペースしか確保することが出来ず,その外側は,雪面が踏み跡の凸凹が凍った状態で緩い下り勾配があり,滑ると危険な方向に誘導される可能性がある,完全に安全とはいえない場所」であったという.現場ではこれが雪山のテント場では通常の状況であり慎重に歩けば何ら問題はないと判断したが,その意識は修正する必要があると今は考えている,とのサブリーダーの意見が寄せられた.テント地の選定も大きな要因であるが,これ以外で歩行が不安定となる原因は何であったが会議では議論された.飲酒についても発言が少しなされたが,時間が迫っていたこともあり,(1)主たる事故原因はテントシューズでテント外を行動したことであり,(2)その危険性を誰も指摘しなかったパーティーのあり方を改善しないと再発の可能性があり,互いにチェックしあうことが必要,(3)自分の会でも可能性の高い問題である,との認識で参加者一同ほぼ一致した.

 

以上,第8回事故対策会議全体を通じての教訓は「互いにチェックしあい,おかしいことはおかしいと言い合う関係を築くこと」であった.なお,事故一覧No.12MTさんからは報告資料をいただいたにもかかわらず時間不足で議論が出来ず文書発言となったことをお詫びします.

 

 

参加者56 豊中労山8 きたろうハイキングクラブ6 てんの会5 大阪ぽっぽ会4 カランクルン3 このはな3 テルル3 福島労山3 モンテス3 HCJUKE2 OWCC2吹田労山2 以下1名の会は安治川 くすのき 高槻労山 エルフ 中郵 テンション 大阪凍稜会 ポレポレ ピトンの会 奈良労山 AIMA YMCC