大阪労山ニュース2014年1月号
登山学校の再編,再開をめざして そのU
教育遭対部長 中川和道 climber-nak@bca.bai.ne.jp 20131215
1.はじめに
来年度からの登山学校について大阪労山ニュース8月号(2013年7月14日発行)で議論をお願いしたところ,いくつかの提案,意見,情報をいただき,議論に弾みがついた.まず初級岩登り教室は「岩登り体験教室」との新しい名称で2014年春から再開の見通しにこぎつけた.川田さんをはじめ関係者のご尽力に感謝したい.
最も重要な情報が初級冬山登山学校から寄せられた.大阪労山ニュース8月号で7月に書いた「初級冬山登山学校も今後の実施主体を府連の教育遭対部・常任理事会に返上したいとの状況が2013年5月に生じた」というのは事実誤認であり「校長になり手がいない」というのが正しいとの情報が何と11月になって寄せられた.何とも時すでに遅く,初級冬はすでにコーチ・スタッフ・運営体制とも解散したとの前提で教育遭対部は5月から討議を開始してはや6か月が経過し現初級冬とは概念の異なる「初級冬山アルパインリーダー学校,夏との統合初級アルパインリーダー学校」の素案を11月には作り終えてしまった.大阪労山ニュース8月号で述べたように初級冬の2013年度の生徒募集は行わないことを6月理事会で決めたので,現初級冬登山学校は現在,昨年度の生徒で構成されるスタッフおよび従来のコーチの研修に鋭意取り組んでいる.したがって緊急の課題は教育遭対部の新しい初級登山学校案と現初級冬との調整である.
本稿では,3月の総会における教育遭対部からの提案の根幹となる登山学校の再編と再開に関して現状の案を紹介する.ニュース8月号ですでに述べたように,何しろ,現在の初級とは概念を大きく異にする提案である.本文を読んで会や仲間で大いに議論していただき,意見を教育遭対部や理事会に上げていただければ幸いである.
2.大阪府連登山学校の制度設計
教育遭対部では,府連全体の登山学校を俯瞰してそれぞれの登山学校の位置づけを再検討した.箇条書きで述べる.
(1)夏・冬ハイキングセミナーと女性のための登山教室は有意義な目標設定のもと大きな成果をあげてお
り,他の登山学校にも波及すべき教訓的な活動内容(過密でなく1か月に1回程度の座学と実技なので自習自立の機運が高い,など)が多い.このまま大いに発展を期待したい.
また,中級登山学校は,連盟の予算投入を受けて独自のコーチ養成プログラムを立ち上げ,その試みを始めて間もない.当面はこのままの路線で大いに成果を伸ばしていただきたい.
(2)今回は正面から取り上げないが,ハイキングリーダー学校の目標を検討した.2013年度の夏山入山
情報をもとにハイキングクラブの活動目標の技術的側面を検討すると,槍穂高連峰や剣岳といった日本の第1級山岳で3泊4日程度の夏山縦走が大きな目標となっている.もしハイキングリーダー学校を開設するならば技術的な目標としてはこのレベルに焦点を絞るべきである.
(3)そうすると,新制初級夏山登山学校の技術目標としては,まず夏山のメンバー養成ではなくリーダー
としての卒業をめざすことになる.ハイキングリーダーの技術目標を槍穂高連峰や剣岳におくのだから新制初級夏山登山学校の技術目標は,難度がもう少し高い1級の沢登りを含めたものになる.沢登りとは水がある場所における岩登りであるとの定義に基づくと,V級の岩登りがリードできなければ沢登りのリーダーはできない.かくして「初級夏山アルパインリーダー学校」とのアイデアにいたった.この学校では,連れて行ってもらう能力を養うのではなく,3・4人パーティーのリーダーとして卒業してもらい,記録をきちんと残せる能力を養う.すなわち,天気図・コース図・ルート図・テクニカルノートなどを自ら書いて残すことにより,「文化としての登山」の実体を確保する.初級冬のリーダー学校についても同様である.
(4) 「初級夏山アルパインリーダー学校」を修了した人が目指す初級冬山登山学校は,初級冬山のリー
ダーとしての卒業をめざすのが自然である.夏のV級の岩登りをリードするアルパイン登攀能力をどう伸ばすかについて教育遭対部は議論してきた.その結果,冬の岩壁を攀じるというよりも,雪崩の危険からの脱出(稜線部の立木から立木へと懸垂下降など)などの場面に際してパーティー全員の行動を指導できる,いわば防御的登攀能力を養う方向に向けてはどうだろう,との方針となった.
(5) このように考えて初級夏と初級冬を連結した「統合初級アルパインリーダー登山学校」の構想に至
った.
(6) 2014年度から新制登山学校を始めるにあたって,それぞれの登山学校で共通とする科目を設定し,
その運営体制を作りたい.共通講座からスタンプ制の運用を始めてはどうだろうか?
(7)受講資格については,これまでの基準を生かして,体力,技術の基準を設ける.新しく「リー
ダーになろうとする人」,「会に活動を還元」などの項目を検討している.
2014年 統合初級アルパインリーダー登山学校(無雪期)素案 座学・実技
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日程未定 |
科目名 |
科目の目標 |
卒業認定の基準案 |
リーダー認定 |
コーチ認定 |
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座1 |
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開校式 登山全般 山行計画事例の妥当性検証 リーダー論独立? |
登山の歴史,社会における位置づけ,登山者の状況,山岳団体,海外登山窓口,山行の種類,事故防止,パーティーとリーダー.山行計画事例の妥当性検証の演習を行う. |
レポート提出.要点把握で合格. |
リ−ダーとして自立する水準になる |
左記の演習問題が出せる |
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実1 |
4/5夜 -6 |
初動山行 蓬莱峡→六甲縦走 |
土曜夜発.蓬莱峡泊(水持参). 幕営地選定,生活技術,行動技術,の模擬指導(互いに)体験. 行動中の現在地確認,記録(写真)のチェック. それらの模擬指導(互いに). |
実技レポート.要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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座2 合同 |
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地図読図 の座学 |
基本的な地図読図ができるようになる. レポートを書いてもらう |
座学レポート.要点把握で合格. 新人指導も何とか可 |
本番で実用できる |
演習問題が出せる |
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実2 合同 |
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地図読図実習 大岩岳など |
1 基本的な地図読図実習 2実習報告書作成提出 |
山行ルート図付きの山行報告書を提出2回(学校山行1回,自主山行1回) .要点把握で合格 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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座3 合同 |
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気象 |
地上天気図作成確認.700hPa天気図との対応で悪天の予想の演習問題を解く.この回に解いた答を報告書にして提出. |
座学をレポート. この回以外に山行の天気分析レポート提出2回.要点把握で合格. 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
天気分析演習問題が出せる. |
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座4 |
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悪場での行動 岩登り 沢登り |
岩場のルート図の見方書き方 沢の遡行図の見方書き方 遭難事故報告書を読む 山行記録事例の検討 装備と行動 |
百丈岩のルート図が描けること. ルート図,遡行図を含む山行記録2回提出 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
左記の演習問題が出せる |
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実4 |
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初級岩登り とロープを用いた行動 蓬莱峡 |
前週に:装備・行動の座学 固定ロープ行動技術,懸垂下降,プルージック登攀,チロリアンブリッジ,確保, V級体験, 報告書提出+自習補講 |
実技レポート.要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
V級リードができる.リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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実5 |
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初級岩登り とロープを用いた行動 百丈岩 |
V級登攀,3人登攀の確保 報告書提出+自習補講 |
ルート図を含む山行記録.要点把握で合格. 新人指導も何とか可 |
V級リードができる.リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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実6 |
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初級沢登り 坊村 明王谷 |
前週に:装備・行動の座学 前夜発 六甲の沢.麓で1泊して遡行 遡行図作成提出 +自習補講 |
遡行図を含む山行記録.要点把握で合格. 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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座5 合同 |
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緊急事態の対処 救急,搬出 事故対策会議の例題を解く |
必要最低限の対処とは何か? 解決策の報告書を提出 |
座学レポート.要点把握で合格. 他人の体験例を分析しレポート提出.判定で要合格. 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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実7 合同 |
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救急,搬出実習 百丈岩 |
前週:座学 必要最低限の対処の実践 転滑落のけが 救助要請か自己搬出か,救急手当,搬出 ハチ,やけど,肺炎,虫垂炎 |
実技レポート.要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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座6 |
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山行計画を作り上げる練習(表銀座コース4人隊輪番リーダー)提案,議論,改良,確定 |
山行計画を作成し提出 |
山行計画の指導ができる. |
演習問題が出せる |
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実8 |
7/19 -21 |
やや大きな山行 卒業検定山行 |
7/19-21(2泊3日)に五竜岳〜唐松岳のリーダーを努め,その総合力の判定を行う.納得できる指示が出せることなど. 山行記録・リーダー記録提出. |
遡行図を含む山行記録.要点把握で合格. 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
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演習問題が出せる |
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座7 |
9/30火 |
山行記録合評会 リーダー論 閉講式 |
2泊の山行をリーダーであと1回やる. その山行記録を持ち寄り合評. 合格水準で認定. |
その山行記録を持ち寄り合評. 合格水準で認定. メンバーとして自立した水準に達し,互いに助け合うこと(サブリーダー)ができるようになること. 新人指導も何とか可 |
2泊の山行を計3回リーダーでやる.山行記録を提出.合格水準で認定. |
演習問題が出せる |
2014年 統合初級アルパインリーダー登山学校(無雪期)素案 座学・実技
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日程未定 |
科目名 |
科目の目標 |
卒業認定 |
リーダー認定 |
コーチ認定 |
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座1 |
10/22火 |
開校式 座学1冬山全般 と冬山計画,冬のパーティー論リーダー論 リーダー論独立? |
山行を計画し実践する準備)5月の五竜岳〜唐松岳) 配布された計画書例の問題点チェック レポート提出 |
レポートの要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
リ−ダーとして自立する水準になる |
左記の演習問題が出せる |
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実1 |
10/27日 |
実1アイゼン 蓬莱峡 歩行
固定ロープ |
土曜夜発.蓬莱峡泊(水持参). 幕営地選定,生活技術,行動技術,の模擬指導(互いに)体験. 行動中の現在地確認,記録(写真)のチェック. それらの模擬指導(互いに). |
実技レポート.要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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実3 |
11/1-3 |
偵察 八方尾根上部で危険予測 |
基本的な地図読図ができるようになる. レポートを書いてもらう |
座学レポート.要点把握で合格. 新人指導も何とか可 |
本番で実用できる |
演習問題が出せる |
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座2 共通講座 |
11/11火 |
気象・気象遭難事例の克服演習 |
1 基本的な地図読図実習 2実習報告書作成提出 |
山行ルート図付きの山行報告書を提出2回(学校山行1回,自主山行1回) . 要点把握で合格 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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座4 合同 |
12/09火 |
冬山の危険と対策行動 |
行動遭難事例の克服演習 山行準備 |
座学をレポート. この回以外に山行の天気分析レポート提出2回.要点把握で合格. 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
天気分析演習問題が出せる. |
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実4 |
12/13土-14日 |
八ヶ岳バリエーション入門 |
大同心南稜,赤岳南稜クラスの登攀と下降 |
ルート図,天気図を含む山行記録提出 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
左記の演習問題が出せる |
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12/16 |
予備の自習日 |
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12/14土 |
雪崩講習 座学 |
座学レポート提出. |
レポートの要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
V級リードができる.リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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実4 |
1/10土-12 |
八方尾根 雪洞 赤布 気象予報 雪崩判断 記録 山行報告 |
ルート図,天気図を含む山行記録提出 |
レポートの要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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1/16金-18 |
雪崩講習会 宝剣 |
レポート提出. |
レポートの要点把握で合格. 新人指導も何とか可 |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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実7 合同 |
1/25日 |
雪の搬出講習 比良 |
レポート提出. |
レポートの要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |
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座6 |
3/21-23 五竜岳 |
修了山行.五竜岳 |
ルート図,天気図を含む山行記録提出 |
レポートの要点把握で合格. 新人指導も何とか可. |
山行計画の指導ができる. |
演習問題が出せる |
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実8 |
3/27金 |
山行記録合評会 冬の部卒業式 リーダー論 |
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コース図・ルート図・天気図を含む山行記録作成3件.チェック,労山ユースへの投稿など |
リ−ダーとして自立する水準になる |
演習問題が出せる |