登山学校の再編,再開をめざして ―教育遭対部での議論の途中経過紹介―
教育遭対部長 中川和道
climber-nak@bca.bai.ne.jp 20130714
1.はじめに
2013年3月の労山府連盟総会やその後の理事会で何度も報告してきたのでご存じの方も多いと思うが,大阪府連の登山学校の中でも重要な位置を占めてきた初級登山学校(夏山編)の次期校長になり手がおらず,今後の実施主体を府連の教育遭対部・常任理事会に返上したいとの状況が2012年11月に生じた.ほぼ同じ時期に初級岩登り教室が募集が出来ず開店休業状態となり,さらに初級冬山登山学校も今後の実施主体を府連の教育遭対部・常任理事会に返上したいとの状況が2013年5月に生じた.2013年6月理事会では,「初級登山学校(夏山編)と初級冬山登山学校の募集は2013年は行わない.見直して再開をめざす」ことを決めた.これらの学校を失った今,大阪府連の登山学校は大きな曲がり角に来ている.
2年前に再建された教育遭対部は,現在,登山学校の再出発に向けて鋭意努力中である.部会を何度か開いて議論を積み重ねて来ているので,この場を借りて部会での議論の途中経過を紹介する.本文を読んで会や仲間で大いに議論していただき,意見を教育遭対部や理事会に上げていただければ幸いである.
2.大阪府連登山学校の現状の分析と改善の方策提案の原案
大阪府連は全国的にみても最も大規模な登山学校を実施している.2012年の受講人数実績をみると,女性委員会が母体の「第?期女性のための登山学校」8人,組織部が母体の「第19期夏山ハイキングセミナー」20人,「第19期冬山ハイキングセミナー」 10人,「第30・31回初級岩登り教室」17人,「第21回初級登山学校(夏山編)」12人,「第37期中級登山学校」7人,「第21期初級冬山登山学校」18人であり,2012年の府連登山学校には何と,92人もが入学してきたことになる.この30-40年余りの輝かしい歴史の中で,単純に推算すると,3000-4000人以上もの卒業生を送り出してきたはずだ.この実績は遭難防止や登山発展に大きなプラスの寄与をしてきたことに間違いない.大阪府連の登山学校は,全国的に見ても最大の規模と内容をもっている.この登山学校の実施は,多くの方々の献身的な努力によるものであり,深く賞賛されるべきものである.
さて,校長になり手がないという事態はどこから来たのだろうか?上に述べた輝かしい実績をさらに前に進めるうえで解決すべき問題点を考えてみよう.
(1)スケジュールが過密なため,スタッフの負担が大きい.また,校長のなり手も限られる.さらに,
近年の就業の実情(夜遅くまで勤務,休みが取りにくい)では,受講を決断するのに相当な苦労を伴う.ちなみに,各登山学校の期間,座学回数,実技回数は,初級夏は6ヶ月間に座学13実技16,初級冬は4ヶ月間に座学13実技12,中級は7か月間に座学12実技17.これに対し,夏山ハイキングセミナー,冬山ハイキングセミナーは1ヶ月に座学1実技1を試みたところ,参加者の自習意識,自主意識が高い状況が生まれたという.
再開後の登山学校はこの教訓や,下に述べる他の県連の登山学校の教訓からも,「1ヶ月に座学1実技1とし,あとは自習を前提とする」ことにしてはどうだろうか?
(2) 各学校が独自完結方式のカリキュラムになっている.長い発展の歴史の中で,各登山学校が独自
の進化をとげてきた結果である.そのため,天気図,地図読図,救急など互いにダブっている科目が生まれてしまい,スタッフは開講準備に受講生は出席に追われてしまう.近年この問題の解決が図られ,初級夏の地図読図はセミナーや女性のための登山教室と共通にしたり,テーピングを中級と初級夏で共通にしているのは望ましい方向である.中級の事故搬出などを救助隊の行事と兼ねているなど,すでに定着した位置づけとなっている.
この方向のさらなる延長上の解決策として,ボーイスカウトや英国登山者教育でなされている「スタンプ制」が検討に値する.気象,救急など,教育遭対部や救助隊あるいは外部組織の講習会などを組み合わせ,年中,何度も開講し,それに参加して修得したら「修得スタンプby講師誰々」をもらう,というやり方である.これなら一回きりの座学に参加できなくても挽回が可能である.
(3)大阪府連の登山学校の体系と目標を検討してみた最大の問題点は,リーダーを養成するのかメンバ
ーを養成するのかという,学校の目標が不明確なことである.
すぐ後の(6)で紹介するが,労山のいろいろな県連の登山学校を調べてみると,目標の設定が重要であることが分かる.リーダー養成をめざすことを明示しているのは,東京都連盟の「東京登山学校ハイキングリーダーコース」と神奈川県連盟の「アルパインリーダー養成学校」で,後者では初級リーダー養成と中級リーダー養成が目標とされている.対照的にマルチピッチクライミングのリーダーではなくフォロワーを養成しますと明示するのは東京都連盟の「東京登山学校
初級岩登りコース」,リーダーやガイドを養成する学校ではありませんと明示するのは埼玉県連の「労山登山学校」である.連れて行ってもらう登山者ではなく自立した登山者になることを目指します,というのは愛知労山の「愛知労山会員向け登山講座」である.
各学校ごとに,リーダー養成かメンバー養成かを検討してみよう.まず,夏山の初級メンバーの養成ならどの山岳会でもできるはずである.この観点からは,初級夏の目標は,リーダー養成とすべきであることになる.初級冬はどうであろう.初級冬のメンバー養成は自信がないという会も相応に存在するであろう.そこで,初級冬登山学校を2年かけて初級冬リーダー養成をしてはどうであろう.
教育遭対部で議論している中で出された試案について書いておくと想像しやすいであろう.初級夏のリーダーの認定レベルは例えば「夏の表銀座や裏銀座を3-4人で登って来るパーティーのリーダーがやれるレベル」あるいは「初級の沢〜一般縦走路を3-4人で登って来るリーダーがやれるレベル」,初級冬のリーダーの認定レベルは例えば「5月に五竜岳〜唐松岳のリーダーをやれるレベル(ハーネス,ロープ使わず)」,実は初級冬にはバリエーション冬初級の認定レベルが検討されていて,初級冬にはバリエーション冬初級の認定レベルは例えば「八ヶ岳大同心稜あるいは阿弥陀岳北稜の2-3人パーティーのリーダーができるレベル」という議論がなされている.
ここでいうリーダーは20-30人の大パーティーを統率するリーダーではなく,いわばパートリーダー,グループリーダーと言えばわかりやすいと思う.さらに言えば,いつでもリーダーをやらされる人を養成するのではない.リーダーの順番が回ってきたらやれる人,つまり自立した登山者というイメージである.
学校の科目には,目玉科目として,リーダー論を加える.
初級夏と初級冬を統合し,「統合初級登山学校」として再開し,通年開校で運用する.夏の部は沢登り偏重を改め,全般の初級夏とする.
(4)スタンプ制の導入とその科目の案
リーダー論はスタンプ化するかどうかまだ不明であるが,重要科目として新設したい.地図読図,気象,高層気象,事故から学ぶなどは教育遭対部の公開行事化するか,テーピング,山での応急処置,救急法,組織レスキューは救助隊の公開行事を科目としてとらえる.アマチュア無線は国家試験を代用し,雪崩講習会は近畿ブロックの講習会を認定科目にあてる.山での応急処置は消防局の講習会や岳連労山合同の救急講習を救助隊の公開行事として実施する,
これらの科目は各登山学校の科目からはずし,共同運用する.このため,各登山学校と救助隊から担当者を出して「共通科目実行委員会」をつくる.
これらはまだ案の段階で,今後,さらに案を練り,関係組織で調整をはかっていく.
(5) この数カ月のうちに教育遭対部でさらに原案を精査し,登山学校長会議,常任理事会,理事会な
どで議論を積み重ね,2014年3月の総会では実施を決め,2014年4月には募集を開始したい.
(6)各県連の登山学校情報 ぜひアクセスしてみて下さい
神奈川 アルパインリーダー養成学校(初級15中級5) リーダー養成 1年(座12実10)
岩+沢+雪山 リーダー論あり 単発受講不可
http://k-rouzan.net/lschool/index.html
東京 ハイキングリーダー(20名) リーダー養成 3か月(座9実4)
http://twaf.jp/2010-03-05-02-25-46/12-hikingleader/241-2012.html
東京 初級岩登り教室 マルチピッチフォロワー養成 3か月(座6実7)
ttp://twaf.jp/2010-03-05-02-25-46/13-2010-02-11-13-04-42.html
愛知 一般向け登山学校 会員向け登山学校マウンテニアリングコース(20名) 会員向け
登山学校クライミングコース(20名) 5か月(座14実11) 単発受講可
無雪期救助訓練,確保技術講習会,救急法講習会,氷雪技術講習会,積雪期救助
訓練,雪崩講習会
http://aichirousan.web.fc2.com/courses_members.html
埼玉 埼玉労山登山学校(20名) 初級全般のメンバー養成 10か月(座8実8,土日)
単発受講可
http://www.tozan.justhpbs.jp/