アルピニズムについて(林コーチ)
アルピニズムとは,ひとつの主義であり,何故山に登るのかの答えでもある。一言で云えばより高みを目指してより困難を求める,ということである。
また,アルピニズムに関連して,アルパイン・クライミングという言葉がある。アルパインというと日本では岩登りが主と思われているきらいがあるが,その意味するところはヨーロッパ・アルプス風の登山,即ち岩と雪の登山を意味する。
アルピニズムを理解いただくためには,まずは登山の歴史を思い起こしていただく必要がある。
それは18世紀,1700年代の終盤,自然科学者H.B.ド・ソシュールに刺激された水晶採りJ.バルマと医師M.パカール,彼らがモン・ブラン初登頂を果たしたのは1786年で,アルプス登山史の黎明期を告げた記念すべき一歩である。
その後,1865年のヴェッターホルン登頂をは刃切りに次々と征服され,1865年E.ウインパースがマッターホルンを初登頂するまでの約10年間に,60座を超えるアルプスの山々が初登頂されている。この時代,純粋に山を登る対象として見るということは,世界中のどの地域でも考えられなかったことである。
山は悪霊が住む恐ろしい場所であり,薬草や鉱物を採るというような目的なく純粋に山に登るという,即ちアルピニズムが発祥したのは人類史上つい最近のことである。
そして,誰も行ったことがない所に行くために,ロープ・ワークなどの技術を磨き,ハーケン,ピッケルなどの装備を発展させていった。
より困難に立ち向かうために。
労山は,先輩方が培ってきたこのアルピニズムを継承し発展させていくのが目的である。
エベレストが登られ,より高く(困難と同義語であった)はなくなってしまってはいるが,ノーマル・ルートからバリエーション・ルートというように,より困難を求めるものに限りはない。
しかし,今,例えば山野井氏に代表されるような人材は育ってこないのが現状である。今の登山ブームは,楽しみだけを求める,或いは健康のためとか,実利的なものじゃないかな?
今一度,登山の大きな価値を認識し,君達にはアルピニズム復興に寄与してもらいたいと思う。
また,アルピニズムは日本の夏山を対象に議論すべきことではなく,絶対的対象であるヒマラヤの冬の壁を対象にすべきではないだろうか。
そうでないと値打ちが下がる。
冬の剱岳は十二分な降雪と黒部峡谷という谷があるから価値があるんだ。
より困難を求め,やってみたろ,という気概がないと世界の土俵に上がれない。
皆には,周到な計画と準備と気概をもっって登山を続けた,続けている先輩を目標に,その心の持ち方をを学んで,そして世界の最先端,世界の桧舞台に立てるようになってもらいたいと望むところである。
(補足)(青木校長,林コーチ)
無積雪期の中級は手取り足取りだったが,冬山は危険が充満している。
自己の命は自分で守る気持ちで参加すること。
連れて行ってもらうは問題外。
実力のない者を無理して連れて行くようなことはしない。
それは目指すものではなく,その人のためにならない。
自分で責任をもってやれる,危険を回避する認識がないと相手にできない。
そのためには,系統的に先人が残してくれたものを学ぶこと。
まずは,解らないことはしつこく聞くことから初めよう。
そして新しい実を結ぶのは君たちだ。