第4回事故対策会議報告
教育遭対部長 中川和道
第4回事故対策会議は2012年5月28日(月)に開催され、23名の方々(末尾参照)が参加し、活発な討論が行われた。この会議は、事故当事者・関係者から事故の状況をうかがい教訓を探し合い、原因究明、今後の対策を討論することにより、連盟全体に共通認識を広げ事故防止をはかることを目的としたもので、第1回(2011/3/5)、第2回(2011/11/8)、第3回(2012/2/29)のまとめは大阪労山ニュース2011年4月号、2011年12月号、2012年4月号に掲載されている。
第4回事故対策会議では昨年度からの分を加えて山スキーを中心に下記の7件を予定し、6件を取上げた。会議では、各会から当事者を含め2名くらい参加いただき、それぞれレジメを25部準備して1件15-20分で報告と議論を行った。会議ではまず、事故当事者の不明や欠点を攻撃する吊るし上げ的な会議ではなく、事故を避ける判断の分岐点がどこにあったのかを探り、その同じ場面に自分が立った時、どう判断して危険を避けられるかを探り合い学びあう会議にしようとの確認がなされた。
まずNo.5大阪志峰会の事故から報告がなされ、事態を把握するため質問や議論がなされた。そのうちにスキーに関する事故を全部まとめて議論してもよいのではないかとの意見が出され大筋で合意となった。そこで下記No.3、No.4 のH.C.Teruruの事故も報告していただいた。さらに大阪ぽっぽ会は下記No.1とNo.2の2件以外にもこの5月5日にも山スキーで事故を起こしており(下記No.5’)、計3件の事故報告レジメにもとづいて報告を行った。以下、事故の内容を補足しつつまとめ直す。
No.1 2011/12/25 16時15分 YI(女性) 30才 大阪ぽっぽ会 白馬五竜スキー場
山スキー挑戦のためゲレンデで練習中、2日間滑って最後に下山の為ゲレンデを下る際、何度かターンを繰り返した時に新雪に足を取られて転倒。右膝がぐるっと一周したような感覚があり、パチンと音がした。痛みでしばらく動けなかったが、膝が曲がることが分かったので自力でスキーで下山した。しかし痛みが酷く歩行が困難なので後日病院で受診したところ、膝の前十字靭帯断裂と判明、再建手術。
No.2 2012/1/8 13時 OT 27才 大阪ぽっぽ会 北アルプス八方尾根無名沢
1月10日、八方尾根より無名沢をスキーにて滑降中にバランスを崩し転倒しスキーが雪に埋まった状態で膝に負担がかかり、右膝関節およびその周囲を痛めた。捻挫として治療。手術は不要。
No.3 2012/1/8 13時30分 HR(女性) 39才H.C.teruru 伊吹山(1377m)の1100m地点
山頂からスキーにて滑走のさい1100m付近で転倒。左手を雪面について前方に一回転し左手第4中手骨を骨折。当時は腫れがあったが軽傷と誤判断。下山後16日後も痛むので病院に行き骨折と診断。山スキーは上手いので転倒に対する警戒心にゆるみがあったと思われ、この点の改善が課題。
No.4 2012/1/8 15時30分 IK(女性) 37才 H.C.teruru 伊吹山(1377m)の690m地点
ゲレンデでボーゲン程度の初心者。6合目からスキーにて下山中標高690m地点で転倒。左足を捻り左ひざ前十字靭帯損傷。スキー板によるソリで2合目付近まで搬送後、ヘリで搬送。度重なる転倒に耐えようと体をブロックしたが耐え切れずしりもちをつくように倒れたさい、膝に過大な力がかかったのかと推測。練習は練習として相応の場所で実施すればよかったが、他の上級レベルの会員と一緒に本に連れて行ってしまった。さらに、8時間行動のあとで疲れがたまっていたかも。
No.5 2012/1/18 15時50分 TH (女性) 66才 大阪志峰会 野沢温泉スキー場
会として今シーズン最初のゲレンデトレーニング。事故者は中級レベル。中級斜面を滑降中、雪の盛り上がった斜面に乗り上げる時バランスをくずして体が後ろに残り、結果的に左足の力だけで踏ん張り、膝裏の筋肉を傷めた。その後滑降は無理で、パトロール隊にスノーモービルでゴンドラまで搬送してもらい宿まで徒歩で戻る。翌日大阪で受診、肉離れと診断。5/28現在まだ山行不可でダメージは大きい。
No.5’ 2012/5/5 10時30分 MI (男性) 61才 大阪ぽっぽ会 頸城山系 三田原山
5月2日からの火打山スキー山行の最終日、下山のため三田原山の南西面山腹をトラバースし黒沢橋に向かっていたところ急斜面で転倒し左ひざをねんざした。同行メンバー2名のサポートを受けながら自力で笹ヶ峰登山口まで下山した。帰阪当日、救急病院でMRI検査の結果、左ひざ前十字靭帯損傷の可能性との診断。5月25日に正確な診断と手術の必要性が判断される予定。
以下、議論を箇条書きにまとめる。
1.山スキーの重大な事故(例えば下りルートを間違えて大きな遭難とか大きな気象遭難)というのでは
なく、山スキー入門段階での事故やシーズン初めの練習段階の事故が今回は多い。「時間を逆に戻してどの分岐点で何を手がかりに事故を避けるか」という観点からいえば、自分の現在のレベルでどの程度の本番に行けるのかが、自分やパーティーに分かっていなかった面がある。本来的には山スキー訓練プログラムの確立が必要で、それにてらして今どの到達度かを明らかにしていく必要がある。
2.事故につながりそうな「危ない予兆」を自分であるいはパーティーでつかむ必要がある。カランク
ルンの参加者からは「荷物に振られるようになったら危ないのでちゃんと休む」と発言があり、このはな山の会の圓尾勝彦さんは事故分析文書を寄せて下さりその中で「自分は午前中1回午後2回転倒するようになったらその日の行動を打ち切る」と述べておられることが紹介された。この文書は重要な示唆を含むので、近日中に大阪労山ニュースなどに掲載していただきたいとの教育遭対部からの発言もあった。
3.今回の事故のほとんどが午後とか午後遅い時刻に起きたという共通点がある。労務災害でも15時
頃は魔の時刻として知られている。仕事を積上げて先が見えた時刻。ホッとする一方、その時点では実は疲労が蓄積しており、「先が見えた時は実は疲労で危険な罠の時」だというのである。スキー登山に限らずどんな登山でも、皆さんも覚えがあるのではなかろうか?もちろん私も。
4.岩登りには難度グレードがはっきりしていて難度を付したルート図がたくさん出版されている、と
ころが山スキーのルート図集が最近は出版されてないのではないか。情報を知る人はぜひ教えていただき情報の交流をいただきたい、との意見が出された。「山スキールート図集2」(白山書房編集部編、1997年)などを中川は紹介したが、ほとんど知られていないのにえらく驚いた。大阪労山には圓尾さん川田さんなど山スキー上級者がいるので、何らかの結びつきの形成が望まれよう。
5.山スキー以外の事故については、雪彦山での滑落事故(N0.7)について当事者から文書で発言がなさ
れた。内容は上記3と共通していて、岩登りを終えて雨の中一般路を下山中滑落してひざ裂傷、疲労も一因と思われるとのことであった。
最後に参加者全員でひと言ずつ感想を述べあった。大阪府勤労者山岳連盟の服部功会長は「『あと1本滑る』で足を折る。足のために1本残して帰ろう」との名言を述べられた。園敏男理事長からは報告をいただいた各会へのお礼が述べられ、検討は始まったばかりであるとの指摘がなされた。
参加者 COWAC 2、H.C.Teruru 3、大阪ぽっぽ会 3、カランクルン 3、白峰山の会 1、淀屋橋労山 1、こもれび1、大阪志峰会 1、ELF 1、OWCC 3、きたろうハイキングクラブ 1、ひまやま 1、くすのき山遊会 1、吹田労山 1