第3回事故対策会議報告

                                  教育遭対部長 中川和道

 2012229()19時から連盟事務所において第3回事故対策会議が開かれた.事故対策会議は,事故当事者・関係者から事故の状況をうかがい,教訓を探し合い原因究明や今後の対策を討論することにより連盟全体に共通認識を広げ事故防止をはかることを目的としたもので,35日に第1回が,118日に第2回が開かれた.第3回は労山ニュース20123月号掲載の事故一報21件について討論するものであり,勤務が終わってからでも参加が可能なように水曜日の夜に開かれ21の山岳会から35名が参加した.21件のうち,時間的制約もあって,以下5件について報告と議論がなされた.

 まず労山ニュース3月号のNo.7.くすのき山遊会の事故当事者から報告がなされた.初級実技で鈴鹿愛知川の沢登り2日目6/25の朝,沢登り靴でスタート後30分,河原の岩に乗ったところ足を滑らせ右うしろの腰部を岩で打撲.右足を回すと痛みがあったが骨折ではないと誤判断.即下山.後に腰椎右横突起2本の骨折と判明.思いつく教訓は (1)慣れないストックを使って岩だらけの河原を歩いたらかえってバランスを崩しやすかった,皆さんもご注意を,(2)サブザックのクッションなどを抜いていたためザックの布1枚ではクッション効果皆無で岩に直接激突した,など.討論では,(1)腰椎の芯の打撲だったら危なかったが運が良かった,重く受け止めよう,(2)サブザックでなく生地が厚い入山ザックで行動すればクッション効果が期待できたかも,(2)いや,軽量化でクッションは抜いていくから他の安全策を探すべき,(3)ストックの過信に注意しよう,(4)歩き始めでまだ慣れないうちは岩に足を置いて体重をかける前に必ずごしごしこすって足の安定を確保するのも有効かも,などが議論された.ストックの使い方によく慣れておくのが今後の対策との見方で参加者一同,大筋で一致した.

 労山ニュース3月号のNo.15.吹田労山 徳野暢男会長から六甲山行方不明死亡事故報告その2(資料計6ページ)が報告された.11/3西山谷最上部の右側の谷の堰堤の上部で遺体が発見された後,11/5に吹田労山などによりまず現場確認.警察によれば骨折は第2腰椎.山岳遭難死亡事故と断定.警察からの遺品のデジカメ画像を時間追跡し足取り現場検証を複数回実施.遺体発見現場の直下の堰堤を左から越したのちに大きな岩から転落したのかと推測するが詳細不明.臨時総会等では,「高齢者・無届・単独経験不足・装備不足(雨具不所持など)・トレーニング不足」などの反省に立って,単独登山禁止(10月末まで),登山届提出の厳守を合意し実行中.教育遭対部長の助言(心構えや姿勢を問うのではなく技術的解決を,実際の入山ルートを所属会に知らせる手立て,事故後は自分の居場所の知らせ方の検討など)を引き続き議論していく.捜索の反省は多くなされたと言い,重要なものが報告された.(1)携帯電話の無人応答から大体の存在可能範囲が示されたもののその範囲の中心であり実際に遺体が発見された西山谷の捜索を詰め切れなかった,(2)全体を把握する司令部的な存在の機能が不十分であった,(3)大阪労山と吹田労山の連携が不十分であった,など.最後に,会の最近の新たな傾向として(1)初級岩登りへの多数の参加,(2)ピッケル・アイゼントレーニングへの多数の参加などが見られることが述べられ,不幸な事故をプラスに転化させたいと徳野会長は報告を結び,救助隊はじめ大阪労山全体へのお礼が述べられた.議論では,まず計画書とは何かが議論され,(1)通常の計画書のほか電話で計画書作成・提出の依頼を受けた第3者が書面にすれば有効な計画書となる,(2)詳細多情報の計画書もよいがまずは最低限の情報から始めることが有用,(3)電子メイルも有効だが熟年層には使いにくいので強制は良くない,などの討論がなされた.次に,救助隊にかける保険の必要性が指摘された.すなわち,ハイキングで行方不明の事故当事者に必要な費用よりも救助隊出動に要する費用が多額となるであろう,救助隊員自身を対象とする保険が必要ではないかというのである.重要な指摘であり今後の検討を要する.また,連盟や救助隊に捜索のマニュアルが整備されているのかという鋭い指摘がなされた.この時点では教育遭対部長中川は,2006年の捜索模擬訓練のさいに連盟として捜索マニュアル()が作成されたことをまだ知らなかったが,林孝治事務局長から,この捜索マニュアル()が存在すること,今後の活用とバージョンアップが必要であること,2012年度に救助隊を中心に六甲山域で捜索の模擬演習が計画されていることが紹介された.

 労山ニュース3月号のNo.10.組織部からハイキングセミナーの技術リーダーとして依頼を受けてきた金澤氏から報告があった.沢実技7/10 岩湧山滝畑千石谷でF2の滝登りのさい固定ロープを伝って登ってくる後続者を支点ビレー確保するようリーダーがスタッフに指示したがそのスタッフは支点ビレーでなく肩確保を実施し,後続者がスリップしたさい引き込まれて体勢を崩して前の岩で拳と肩を強打し右肩を打撲負傷.議論では,まずハイキングセミナーで沢登りがなぜ必要かとの疑問が出され,ハイキングセミナーでは登山の全般についてその魅力を披露し登山・ハイキングへのいざないを行うことを使命としていることが述べられた.この議論を通じて,ハイキングセミナーにおいても遭難対策・事故防止対策の具体的検討が必要であることが明らかになった.

 労山ニュース3月号のNo.9.中級登山学校校長朝日喜久雄氏からの報告がなされた.中級登山学校登攀トレーニングで7/10六甲山系保塁岩へ.朝1番で岩場に向かうべくアプローチの西稜を下降中,受講生が西稜の上部から約20m転落.膝蓋骨や第4腰椎等を骨折し救助へりコプターで搬出.ヘルメット装着.本人の力量判断が難しくロープを使わずに下降するのがあの場合には不適切との決断に至らなかった.事故が起きた7月は10月の遠征(錫杖岳など)に向けていわば仕上がっているべき時期であり,当該の受講生にもコーチ側にもそのプレッシャーがあったと思われる.今後は受講生の現実の到達度をきめ細かく把握する必要がある.2012年度は受講生を10名程度に絞り受講生に密着して安全に進めたい,との報告であった.討論では,(1)急な岩場を20mもバウンドしながら転落して命に別状なしとは本当に幸運であった,(2) 事故者の下には前のパーティー3名と事故者のパーティー1名が下降中でありそれらのメンバーに衝突し彼らを巻き込みながら転落するなど大事故に発展する可能性もあった,(3)事故者は前向きに下降したというがこうした時はどうやって危険を避ければいいのか?などの発言があった.(4)教育遭対部や林事務局長からは2/22になされた全国連盟からの指摘「登山学校中におきた事故は受講生・コーチ・スタッフ誰の事故でも登山学校が組織責任を負うべきものであり個人責任は問うてはならない」の紹介があり,登山学校として事故防止を全うする考え方を掘り下げていくことが必要との問題提起がなされた.具体的には,不安なら不安をためらわず表明できる雰囲気が大事であるなどの課題が出され,中級登山学校コーチ会議3/22には教育遭対部も参加して事故防止の討論を行なう予定であることが紹介された.また,当該の下降路には以前はロープが残置されていたが近年は無い.岩場では人工物を残さないのが美徳という近年の風潮もあるが,西稜の下降路に残置ロープはやはり必要との意見も複数出された.現状では登山ロープが残置されている.

 労山ニュース3月号のNo.18.複数の山岳会メンバーが合同で高知県大堂海岸にてフリークライミング.1/9登攀日程を終えたのち帰路に向かいロープなしでアプローチ岩場を登る途中(4人中3人目)にYMCC会員が約12m転落し死亡.死因は脳挫傷.ヘルメット装着,アプローチシューズは510製.落ちる瞬間の目撃がなく直接の原因は不明.ロープを使うには簡単すぎる岩場との意見もあり,どうすれば事故を防止できたかは今後詰めて考えていきたいとの報告であった.参加者からも当該山岳会や同行したメンバーでの突っ込んだ議論を求める意見が出され,時間が押してきたこともあり,対策は次回の事故対策会議へと持ち越される形で討論を終えた.

 今回の事故対策会議は平日の夕刻に開催された.土日に比較して参加しやすい反面,じっくり掘り下げて討論し続発する事故の原因を掘り下げるには困難があった.討論の時間を確保するため討論は15件程度とし,場合によっては年に数回の開催が必要と思われる.