山行記録事例

赤岳西壁南峰リッジ偵察〜阿弥陀岳北陵

                                  OWCC 中川和道

2014/1/10()1/13 中川和道,清水寛仁(ピトンの会)

 

 冬の八ヶ岳でアルパインクライミングをとの話がまとまった.2014年度から開校予定の統合初級アルパインリーダー登山学校のカリキュラムに取り入れられている初級アルパインルートの登下降を前もって経験し登下降の可能性を探っておこうと中川は考え,清水さんの了承をいただいて,赤岳西壁南峰リッジと阿弥陀岳北陵を実際に登ってみることにした.前者は悪天のため偵察未完に終わったが後者は良い天気で十分な手ごたえをつかむことができた.天気図の記録も合わせて載せてみたので,山行記録の書き方の参考になれば幸いである.

 

1/10  22:00吹田SA集合.美濃戸へ

 

1/11()赤岳上部は霧で視界なし

 7:26美濃戸発 9:50赤岳鉱泉着テント設営 11:30赤岳鉱泉発  12:10行者小屋 

13:30文三郎道から分かれて南峰リッジへ 15:00壁に突当り敗退  16:30赤岳鉱泉

 

当初参加予定だった清水佳代さんが都合で参加中止となり,清水寛仁さんと中川の2名で中川のワゴン車で入山.中央高速道の途中「小黒川」というパーキングエリアで眠る.ここは静かでいい.余分に持参した2つの寝袋が暖かくうまく熟睡.

4輪駆動車の強みでチェーンなしでも一気に美濃戸まで上り赤岳山荘駐車場に入った.7時半前に出発.もっと寒いかと覚悟してきたが鼻がつんつんしない.-10℃よりも上だ.9:50赤岳鉱泉に着きテント設営(アライのエアライズ2).登攀具のみを持って南峰リッジの偵察に向かう.清水さんはかつて赤岳からの下り道を間違えて頂上直下の三角様岩壁に出てしまい,登り直した経験があり,そこを目指そうと言う.しかし赤岳主稜取付きくらいの高度から上は霧に包まれて吹雪の中で視界がちっとも得られない.登山体系が「南峰リッジ・ルンゼルート」と呼ぶものを目指してとにかく取付いてみたが,何と,下部岩壁のど真ん中にでてしまい,行き詰ってしまった.視界が全くなくどこを登っているかも分からない.15:00ついに敗退を決め,下山にかかる.

下山中,阿弥陀岳北陵の取付き点を検討した.このくらいの視界はあった.中岳沢を登りすぎてしまうと中岳沢が喉のように狭くなり雪崩の直撃を受ける危険が増す.検討の結果,ジャンクションピークJPのすぐ下部付近がよいとの結論となり,そこを目指すこととした.

翌日1/12に阿弥陀岳から偵察した結果では,この南峰リッジルートはラインがはっきりせず,あまりにも岩稜なので初級登山学校の登下降ルートにはふさわしくないと結論した.

 

1/12(日)寒いが晴で風弱し.赤岳鉱泉―行者小屋―阿弥陀岳北陵―阿弥陀岳―中岳沢下降―赤岳鉱泉

 6:30赤岳鉱泉テント発 7:00行者小屋 7:22文三郎道と中岳沢の分岐(道標あり)

 8:00北陵JPの下部をめざしで北陵に入る 11:20阿弥陀岳 

12:10中岳沢のコル 13:00行者小屋 14:00赤岳鉱泉

 よく晴れている.行者小屋から阿弥陀岳北陵の上部がよく見えたので,ルート図と照合理解しようとじっと目をこらしてびっくり.7時現在すでに第1岩壁の下部に3人パーティーが見えるではないか(図2参照).これは混み合いそうだ.7時半前に文三郎道と中岳沢の分岐で道標を確認していたら大パーティーが後ろから追い抜いて行った.これが多人数で何と20人近い.彼らが夏道に入ったので我々は中岳沢から入り,彼らの先に出ようとあせって歩く.昨日文三郎道から偵察した取付き点は割と上だったので雪崩地帯に踏込みそうだ.これはやめて,少し下の赤布がある分かれ道から北陵に入る.ジャンクションピークJPのすぐ下部の尾根に出た.サングラスがないと雪目になる快晴の山だ.清水さんは順調に登るが中川は何だか疲れ気味で体が重い.それでもこれでやっとあの大部隊の先に出られたと喜んだのも束の間,何と,JPに右から合流して来る尾根から,別の大パーティーが現れた.これはすごい混雑ぶりだ.調子が悪い中川は体に鞭打って登り,第1岩壁をノーザイルで抜ける.第1岩壁とは名ばかりで太い木々が生えた斜面だ.ここを抜けて両側が開けたリッジを登り,第2岩壁の基部へ.

第2岩壁の基部にはすでに15人以上もの人々が順番待ちをしていた.第2岩壁は左の大きな岩の塊の正面のリッジ状のところのハーケンに中間支点をとって登る人が多い.取付きでしばらく様子を見ているうちに通常のルートのすぐ左上部にやさしい部分を見つけ,ここを登ることにした.多人数をとばして割り込むようなことにはなりたくないので,清水さんに先をよく確認してもらったが判然としない.ノーザイルで取付いた.2級程度の岩を5mほど登ったあと岩稜をノーザイルのまま10m登ると,最後の3級5mピッチの下に着く.やはり割り込んだ形になり,みなさまに申し訳ない.反省した.最後の3級5mピッチの下では2人の先行パーティーがペッツルのステンレスボルト2本を確保のアンカーにして登っていた.彼らの先に登らせてもらう.ここから8.5 mmザイルのシングルで3級5mピッチを清水さんリードで登り,雪稜上に20mザイルを延ばすと稜は左に大きく屈曲するがここで雪を掘ると腕ほども太さがあるハイマツがあり,清水さんはこれを確保点として用いて中川を確保してくれた.大雪で撤退する場合など,絶対の信頼がおける下降支点として極めて有用であるから覚えておこう.

 太いハイマツの確保点から少し登ってザイルを解き,あとは一路頂上へ.女性2人パーティーと写真を撮りあって中岳のコルに下山.快晴の空に白い新雪の富士山が美しい.昨日吹雪の中で行詰まってしまった赤岳西壁南峰リッジをよく観察し,写真に収めた(図3).阿弥陀岳から偵察した結果では,このルートはラインがはっきりせず,あまりにも岩稜なので初級教室の登下降ルートにはふさわしくないと結論した.

中岳沢の雪は固まってはいないものの安定しているので,ここを下る.日陰に入るとやっぱり寒い.ゆっくり下山し,14時前に赤岳鉱泉着.赤岳鉱泉では砺波さん,嵯峨山さん,則友さん,安保さんと一緒になり,小屋で暖かいストーブにあたりながらワインを楽しんだ.栗田さんにもお会いした.ああ幸せ.

 

1/13()ふもとは晴.美濃戸から車で大阪まで帰った.走行距離往復810km

 

テクニカルノート

1.赤岳鉱泉では小屋で水がもらえる.2人2泊で普通の食事でEPIガスは内容量230gの中型カー

トリッジ1本でぎりぎり足りない.内容量110gの小型カートリッジ1本を余分に持つとよい.

2.行者小屋は今年はこの時期営業していた.そのせいか,水が出るように配管が設置されていた.

場所は阿弥陀岳寄りの沢の中.

3.初級アルパインルートの登下降の訓練を行うには赤岳西壁南峰リッジは上記の理由で不適格.阿弥

陀岳北陵では,下降訓練のさい,第2岩壁下部で順番待ちをしている他人に迷惑をかけない手立て

(沢の方向に下降すること)と十分な配慮が必要.下降訓練は遅い時間に行うのがよい.赤岳から

硫黄岳に縦走したあと,「大雪で中岳沢が雪崩そうで下降は危険」な場合を想定して14時以降に

下降訓練をするか,あるいは北陵を登ったあと時間をつぶして待ち,14時以降に下降訓練をするこ

とになると思われる.

テキスト ボックス: 図2.行者小屋から望む阿弥陀
岳北陵ルート,北西稜ル
ート
テキスト ボックス: 図3.阿弥陀岳から赤岳西壁南
峰リッジを望む.写真左
下から右上するのは文
三郎道.
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


天気図の記録と天気の対応