統合初級アルパインリーダー学校模擬リーダー山行 阿弥陀岳北陵の記録その2
木村治朗 中川和道
大阪労山ニュース2015年7月号よりつづく
■天気予報 ヤマテンより引用
20日発表
21日:日本海から三陸沖に進む高気圧に覆われて晴れる.風も日中は弱い.警戒事項:乾雪雪崩
22日:中国東北地方で低気圧が発達する.この低気圧は停滞ぎみだが,寒冷前線が西日本を東進
し,夜遅く北アルプスを通過する.朝から稜線では南西風が強く,日中一旦弱まるところも午後は急速に強まって,南側に開けた稜線や尾根上で暴風雪に.尾根や稜線以外では午前中,風の強まりを感じないところが多いが,尾根や稜線に出てからの急激な風の強まりに要警戒.また,気温が上昇するため,標高2,000m以下では午後,次第に雨となり,夕方には標高2,400m付近までみぞれや雨になる見込み.湿雪雪崩や沢の増水,ブロックや雪庇の崩落にも警戒. 担当予報士:猪熊
21日発表
22日:三陸沖の高気圧が東へ遠ざかり,南から湿った空気が入りやすくなるため,朝のうちは一
時的に小雪が降りやすい天気になりそう.稜線では南寄りの風がやや強く,強まるところも.その後,日中は一旦晴れ間が多くなるが,次第に沿海州沿岸付近から南にのびる気圧の谷が接近してくるため,夕方頃には雪や雨が降りやすくなっていく.稜線では荒れ模様になる恐れ.夜は標高2000m付近まで雨が混じる恐れもあり,沢筋では湿雪雪崩やブロックの崩落などに要警戒. 警戒事項:強風による転滑落,低体温症,凍傷,乾雪雪崩,湿雪雪崩,ブロック崩落,視界不良による道迷い 担当予報士:小林
■地上天気図・高層天気図
2/21/9時地上: 移動性高気圧が上空まで存在するかどうかは高層天気図を見る.八ヶ岳は良く晴れた.富士山がきれい. 2/21/9時700hPa高層:八ヶ岳上空は はっきりした気圧の峰-5℃.そんなに寒くないので移動性高気圧が去る前に登るべし.チャンスだ.実際は昼間+5℃と暖かかった. 2/22/9時地上: 2つ目玉低気圧がやってくる.さっさと下山した. 2/22/9時700hPa高層:気圧の谷につかまる.30ノット-3℃と暖かいから雪崩が怖い.雪が降る中,さっさと下山した.
■GPS軌跡
※各種文献やネット上の資料,写真などで,P2578をJP(ジャンクションピーク)としているものが多いが,ここは尾根の合流にはなっていないので間違い.何と中川も間違っていました.
■テクニカルノート(文 木村・中川)
1.3人隊2つで行動した.ロープは8.5ミリ50mを3人で2本の計4本.スノーバーはよく効
いて,有用であった.各隊に1本 の計2本としたが,アイスバイルの代わりに短いハンマーを持参した人もいて,各隊2本の計4本でも良かった.装備に関する認識と意志の統一が必要であった.ロックハーケンは第2岩稜上半部で1枚打った.ワートホッグ(4本持参)の出番は今回なく,山はすでにスノーバーの季節に移っていた.クイックドローは共用が各自2セット計12セットで,とくに問題はなかった.
2.木村のハーネスが懸垂中にはずれるという,あってはならないヒヤリ事象がおきた.
本文中にもあるが,バックルの折り返しが外れており,テンションがかかってすっぽ抜けたようである.行者小屋出発時に折り返しをしたのは確実なので,行動中何かに引っ掛けたかで折り返しが抜けたとしか考えられない.物はCAMPのブリッツ.ベルト細くもバックルも小さく非常に折り返し等がやり難いので,手袋をする冬季には不向きなモデルと言える.防止策としては,賛否はあるが,ヤッケをハーネスの外側にしていれば起こらなかったかもしれない.また,懸垂開始時に再度確認(パーティごとでの相互チェック)をするべきであった.
3.北陵を下降するさい,他のパーティーの行動を阻害したり雪崩を誘発したりしない下降ルートの
取り方を議論検討した.その結果,2枚目の写真において第2岩稜の左わきギリギリを岩稜に沿って懸垂するルートが最良との結論となった.今回は時間がなかったため,登りと同じルートを下降することとした.一般論で言えば,「岩稜ギリギリに懸垂すれば,雪崩は起こさず,支点も取れそう」ということか.
4.今回,50 mロープを2本使って一人ずつ下降を3回,最後は25mにして1回下降した.懸
垂に要した時間を14:30から17:00までの180分とすると一人1回(50m)の下降に平均7分かかったことになる.これを早いと見るか遅いと見るかは意見が分かれたが,この時間をさらに短くする必要がある点では全員が一致した.
5.木村が提案したものの今回は実施に至らなかった懸垂方法の改良案を書いておくので今後試し
2本を●印で結び,2本のロープを□点でロックして互
いに連結しでおく.次に1本のロープを使って懸垂す
る.2人同時に降りる.最後の一人はロープのロックを
解除して通常の懸垂で下降し,ロープを回収する.支点
には当然2人分の荷重がかかるが,この山行の想定は,
「雪崩のない場所を懸垂で降りて撤退する」ことであり,
雪崩のない場所を探すとは,2人分の体重に耐える大
きな木を探すことだ.
クラブOARの大見さんの話では,10数年前に韓国
2人同時懸垂. インスボンで見かけたという.
行い,時間を節約しているのを目撃したという.インス
ボンの岩場はそんなにも混み合っているという.
多人数同時の固定ロープ下降. 一度試してみたい.
ん作って固定ロープ2本を作り,多人数が一度に効率よ
く下降することも考えられる.傾斜がゆるい場所ではこ
の方法も有用なのではないだろうか.一度試してみたい.
6.「中岳沢が危ない時には文三郎尾根を下山」と言われているが,阿弥陀岳から中岳のコルまでが
一番危険度が高いと判断された.要注意である.
7.阿弥陀岳から中岳方向へは,一旦北陵方向へ下ってからトラバースで向かう.頂上から南稜へ行
かないよう注意が必要である.
8.行者小屋は今年は冬の期間は週末だけの営業をしていたが,年によって違うので要確認.
ビール(350mlのみ)¥500/ペットボトル¥400 土曜日は20:30まで買える.テン場は1人1泊1,000円(張数は無関係)
9.行者小屋の水場は文三郎道を少し進んだ右手に沢からのチューブあり.冬季ずっと使えるかは
不明.
10.ガスの使用量を計量した.今回は水場の水を利用したので雪からの水作りもなく,採暖の必
要もなかった.あまり参考にならないが,250gを1本も使い切っていない.
11.美濃戸口から赤岳山荘は4輪駆動でもチェーンがあった方が望ましい.少なくともデフロッ
クのない車は上がれない.
12.赤岳山荘の駐車場は1日1,000円であるが,朝の回収時には2,000円取られる.1泊2日
ということか.
13.美濃戸口の八ヶ岳山荘の仮眠室は,いつでも利用でき,暖房,布団付きで2,000円.シュラ
フやマット等のパッキングを考えるとかなり有効.今回は2人しか入れそうになく,利用しなか
った.
14.諏訪南IC直近の中央道原PAは静かで仮眠に良さそう.
15 .今回,井上が軽い呼吸困難の様子を示した.高度による一時的な高度障害かと中川は心配し
たが,結果的にはこの時だけのものであったようだ.これにめげず,どんどん高い山に登ってほ
しい.